Panel one - curated by ASATSUMA Yukari

太田奈那『3/11』朝妻緑によるキュレーターコメント
『inversion』は日本語で反転を表すが、他の言葉で表すならば逆、逆転、反射、倒置、倒錯。現在置かれている状況からの脱却、進展または飛躍とも取れることが出来るだろう。このテーマはコロナ禍において全ての行動に制限を強いられてきた私たちが日本のアーティスト達の作品と共にその境界線を飛び越えこの地に赴くことができた状況とリンクしているように感じられる。
本来は口を覆うマスクを大量に頭につけている女性らしき人物。目を引くのはそのマスクと色づいたリップだ。覆われている瞳に浮かぶ表情は怒りか悲しみか苦しみか、喜びではないことだけは表情と背景の激しい飛沫が訴えている。グレーに色褪せた世界で彼女が伝えたいことはきっと窮屈さからの開放や現状からの脱却と逆転だろうということがうかがえる。あなたはこの作品から何を感じただろうか。3/11という文字を見て何を思い浮かべるだろうか。小さなキャンバスのなかで叫ぶ彼女が放たれる強いメッセージはこちらの心を掴む。
ジョディ・フォスター『Material Inversion』朝妻緑によるキュレーターコメント
先では『inversion』は反転を表し、現在置かれている状況からの脱却、進展や飛躍といった目に見えない私たちを内包するモノの変化と捉えたが、反転されるものは状況だけではない。その物を構成する要素を反転することもできる。カラーコントラストや上下左右の位置変化、鏡映し、そして物質の変更。それを行ったのが、『Material Inversion』だ。
この作品を見てあなたはまず何を思うだろうか。最初に目に止まるのは前面に位置する物だろう。麦わら帽子などに使われる素材であるラフィアと毛糸が編まれていて独特の存在感を放っている。この異なる素材を合わせた編み物をオイルパステルで描いた絵の上に重ねて撮った写真作品だ。硬い素材を使っているが、それは植物由来であるからか、はたまた作者の手で編まれているからか、呼吸をしている生き物であるようにも感じられる。背景のオイルペインティングも編み物と同様に色相が補色で全く異なる色であるオレンジと青が使われている。異なるものが一辺で混じるその先は融合と分離どちらだろうか。
太田奈那
出身:愛知県
大学:女子美術大学
専攻:芸術文化専攻
普段はデジタルイラストや編み物を制作している。
ジョディ・フォスター
出身:レスターシャー
大学:ラフバラ大学
専攻:アート&デザイン基礎研究コース
リアリズムの肖像画を作る他、物理的な素材や写真を使った描き方に取り組んでいる。
キュレーター:朝妻縁
出身:新潟
大学:女子美術大学
専攻:芸術文化専攻
ゼミ:芸術人類学、色彩学、日本美術史
民族衣装に興味がある。