Panel nine - Selected by Yuno MUTO

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武藤優奈による龚思晴の『空』についてのキュレーターコメント 

本年のポストカード展のテーマは「Cultivate」である。「Cultivate」はさまざまな意味を持つ。例えば「耕す」「養う」「育む」などである。アーティストのゴンシキンは、これらの意味を総合して力や実体が「広がる」ことに焦点を当てた。だからこそ内部、そして外部への広がりを感じるこの作品を制作したのだろう。

この作品は手漉き紙、楮、羊毛を用いて制作されたものを127mm×178mmのデジタル画像に変換したものだ。我々が見えているのはこの範囲でしかない。しかし、外側への広がりと奥への深さを確かに感じることができる。それは繋がっていく繊維から構成される支持体の特性を活かしているからである。また、タイトルにもある通りこの作品は「空」を表現しているが、晴天のような晴々とした青ではなく、深く多層的な青で描写されている。あまりの広大さに畏怖を抱くような空を表現するための色選びにも先述した「広がり」を感じさせる。

全てを飲み込んでしまうような空に我々は感嘆しある種の恐怖を抱く。その空を題材にし、「Cultivate」の意味を概略的に捉えた「広がり」をこのアーティストは見事に表現した。

武藤優奈によるホーリー・リードの『Strings Attached』についてのキュレーターコメント

今回の展覧会のテーマは『Cultivate』、複合的な意味を持つ単語である。上記の作品を制作したアーティスト含む3Dアートを専攻する人々は、技能や技術を「育む」ことに焦点を当てた。

この作品は別々に縫い合わせたモデルを重ね、絡み合うように配置した写真作品である。奥側にはカラフルな糸が編み上げられており、手前側は同系色の糸が一箇所から伸びてきている。彼女は制作にあたって、まず製本方法の一つである糸綴じという糸を用いた作品の調査から始めた。それらの作品に込められた意図や技法を読み解き、自身の作品につなぐ糧とした。彼女のスケッチには縫い方や組み合わせ方のメモ、実際に糸を用いて縫う練習も行われていた。その試行錯誤の末に生まれたこの作品は、その計画性が如実に表れていると言えるだろう。糸が用いられた作品というと刺繍が真っ先に思いつくが、この作品は刺繍のように糸を敷き詰めるのではなく、それを張り巡らせている。糸の面積だけを見れば決して密度のある作品ではない。しかし、糸と糸との隙間の空間は計算されたうえで存在しているのだろう。画面全体はアーティストの意図と計算で構成されていると言える。

彼女は制作にあたって技法への知見を深めた。この経験は間違いなく今後の表現の幅を広げる、スキルを育むことにつながったことだろう。

龚思晴 (ゴン シキン)

中国四川省出身 女子美術大学短期大学部デザインコース、テキスタイルデザイン所属

ホーリー・リード

イギリス リンカンシャー州出身 ラフバラ大学アート&デザインファウンデーションコース所属 普段は弦、糸、紐を用いた作品を制作

キュレーター:西野わか菜

埼玉県出身 女子美術大学芸術文化専攻2年 芸術表象ゼミ、色彩学ゼミ所属

本を読むのが好き